「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」の公表~ポイントと実務への影響
2026.09.17
2026年8月3日、「知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会」(内閣府並びに経済産業省)は、「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス」を公表しました。
本ガイダンスは、改訂されたコーポレートガバナンス・コード(CGコード)を踏まえ、知的財産等の無形資産(「知財・無形資産」)を企業価値向上の源泉として捉え、その「創出・取得・強化・保護・収益化」を経営戦略に組み込み、投資家等へ説明することを取締役会に求めています。
対象となる知財・無形資産は、特許権、商標権、意匠権、著作権といった知的財産権に限られず、技術、ブランド、デザイン、コンテンツ、データ、ノウハウ、顧客ネットワーク、信頼・レピュテーション、バリューチェーン、サプライチェーン、さらにはこれらを生み出す組織能力・プロセスにまで及びます。
1 ガイダンスが目指す「攻めの参入障壁」と知財投資の可視化
本ガイダンスが重視するのは、知財・無形資産を「中長期の成功のタネ」として位置付け、攻めの参入障壁を構築し、価格決定力やゲームチェンジを生み出すことです。従来、知財戦略は権利取得や侵害対応を中心に語られがちでしたが、今後は自社の市場での立ち位置、競争優位の源泉、他社との連携可能性を踏まえ、事業戦略と一体で設計することが求められます。特に、知財・無形資産への投資は、短期的には費用として計上され利益を押し下げる方向に作用しうる一方、中長期的には限界利益の向上や持続的成長に寄与し得るため、その因果関係と時間軸を可視化し、適切な「重要業績評価指標(Key Performance Indicator、KPI)」を設定することが重要です。
2 5つのボトルネックと対応策
本ガイダンスは、日本企業における主要な課題として、以下の5つのボトルネックを挙げるとともに、その解決に向けた対応を提示します。
①「取締役会・経営陣の体制」
⇒取締役会で知財・無形資産への投資を経営計画の議題に組み込むこと、
知財・無形資産の創出・取得・強化・保護・収益化を統括する「執行責任者(担当CxO)等」の責任体制を整備すること
②「中長期の価格決定力を支える参入障壁の構築・移転・活用」
⇒自社の事業プロセスを細分化して知財・無形資産を軸とした視点で可視化すること、
他社との連携による経営資源の補完を行うこと
③「投資効果が短期利益に現れにくいジレンマ」
⇒上記因果関係と時間軸の可視化を行うこと
④「戦略的な部門間連携・人的配置」
⇒知財部門と事業・技術・経営企画・財務部門が連携すること
⑤「投資家への発信不足」
⇒投資家に対して知財・無形資産が将来価値にどう結び付くかを説明すること
3 知財実務・契約実務への影響
本ガイダンスは、知財実務を「守り」から「価値創造」へ拡張する重要な契機といえます。ライセンス、共同研究、業務提携、M&A、データ利活用、ブランド管理等の契約実務においても、単に権利帰属や秘密保持を定めるだけでなく、どの無形資産を誰が創出・利用・収益化し、どのように競争優位につなげるかを明確に設計する視点がこれまで以上に重要になると考えられます。
企業は、本ガイダンスを踏まえ、知財・無形資産を経営、契約、開示、ガバナンスの横断的テーマとして再点検することが推奨されます。
(参考資料)
内閣官房「政策会議」ウェブサイト
知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス ~コーポレートガバナンス・コード改訂を機会に、企業価値を向上させるために~」
知財投資・活用戦略の有効な開示及びガバナンスに関する検討会「価値創造を加速する知財・無形資産投資・活用のガイダンス ~コーポレートガバナンス・コード改訂を機会に、企業価値を向上させるために~ 付属資料」
弁護士 笹本 摂
弁護士 向 多美子