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タレントと芸能事務所の契約関係に適用される法規制について

2023.10.19

近時、ニュース等で、タレントと芸能事務所との間の問題がクローズアップされているが、
そもそも両者の契約関係において、どのような法規制が適用されるのだろうか。裁判例や法改正なども踏まえて概観する。

1 契約形式

タレントと芸能事務所との間では、「専属マネジメント契約」や「エージェント契約」といった形の契約が締結されるのが一般的である。

専属マネジメント契約は、タレントが芸能事務所に所属し、事務所においてタレントのプロモーション、クライアントとの契約条件の交渉、スケジュール管理、マスコミ対応等のマネジメント業務、さらには、育成や権利管理等の全面的なサポート(トータルマネジメント)を行い、タレント活動の結果得られた収益を両者の間で分配する契約であり、これまでの日本の芸能界においては、このような専属マネジメント契約を締結することが主流であった。

これに対し、最近のジャニーズ事務所や吉本興業の問題に端を発して、一部のタレントとの間で導入され、また、今後、導入が進むと考えられているのが、エージェント契約という形の契約であり、これは、専属マネジメント契約のように、芸能事務所がタレントのトータルマネジメントを行うことは予定されておらず、タレントが、芸能活動に必要な一部の業務(プロモーション活動、クライアントとの交渉窓口)についてのみ、芸能事務所(エージェント会社)を代理人として起用し、タレントから芸能事務所に対し一定の手数料を支払う契約である。エージェント契約においては、一般にタレントの取り分が大きくなるが、スケジュール管理、マスコミ対応、権利管理等のいわゆる身の回りの世話は、タレント本人やタレントの個人事務所が行う必要があるため、いずれの契約を選択すべきかは、タレントの意向、知名度、実力、事務所とタレントの関係等により変わってくる。

2 法規制

以下、タレントと芸能事務所の間の契約に適用される法規制について、問題になりやすい専属マネジメント契約を念頭において、説明する。

(1)民法

上記の通り、専属マネジメント契約は、タレントが芸能事務所に対し、マネジメント業務を委託する契約であるため、民法上の準委任契約に該当し(民法656条)、民法上の契約自由の原則(民法521条)により、当事者間で自由に契約内容を定めることができるのが原則である。

もっとも、契約自由の原則と言っても、現実には、両者間に一定の力関係の差異があることが多く、実際には、タレント側に不利な条項が定められるケースが往々にしてある。
そのため、民法上も、タレント側の権利や利益を著しく損なうような定めは、一定の場合、社会的な一般常識から逸脱するものとして、公序良俗に反し無効されることがある(民法90条)。

最近の裁判例では、歌手である愛内里菜さんが、所属していた芸能事務所から、契約終了後も無期限に芸名使用を禁止する条項に基づいて、芸名使用の差止めを求められた事案において、裁判所は、かかる条項のうち少なくとも、何らの代償措置もないまま、契約終了後も無期限に芸名使用の諾否の権限を事務所に認めている部分は、社会的相当性を欠き、公序良俗に反するものとして無効であると判断している(東京地裁令和4年12月8日判決(令和3年(ワ)第13043号芸名使用差止請求事件))。

他にも、例えば、タレントの債務不履行等を理由に違約金を支払わせるような条項は、金額が高額で、事務所が被る損害額等との関係で合理的な説明が付かない場合には、公序良俗に反して無効と判断される可能性がある。

なお、アイドルと所属事務所とのマネジメント契約において見受けられる、いわゆる「恋愛禁止条項」についても、憲法上保障される幸福追求権を制約するものであり、公序良俗に反し無効ではないか、という点が問題となるが、過去の裁判例において、明確に無効と判断したものは見当たらない。例えば、この点が問題とされた東京地裁平成28年1月18日判決(平成27年(ワ)第1759号損害賠償請求事件)においては、条項自体を有効とした上で、賠償請求できる場面を限定している。

(2)労働関連法

上記の通り、タレントと芸能事務所の契約形態は、民法上の準委任契約であり、タレントは労働者ではなく、個人事業主(フリーランス)と位置付けられるのが原則である。
もっとも、法律上、「労働者」に該当するか否かは、契約の形式ではなく、実質に基づいて判断されるため、タレントと芸能事務所の間に、実態として指揮命令関係が認められる場合には、タレントは実質的に労働者に該当すると判断され、両者の間の契約関係においても、労働関連法に基づく様々な規制が及ぶ可能性がある。

すなわち、労働関連法においては、使用者との関係で弱い立場に置かれる労働者を保護するために、様々な規制が設けられており、労働時間、有期雇用期間、最低賃金、未払残業代等の種々の条件について、法令上、強行法規として一定のルールが存在し、契約関係においてもこれらのルールを無視することは出来ない。

例えば、契約期間について、労働者の有期雇用契約期間は原則として3年以内とされているため(労働基準法14条)、タレントが実質的に労働者と判断された場合には、芸能事務所とのマネジメント契約において、3年を超えるような契約期間を定める条項(事務所側に3年を超える契約期間の更新オプションが設けられている場合を含む)は無効となると考えられる。

同様に、有期雇用契約を締結した労働者は、1年以上勤務した場合には申出によりいつでも退職を申し出ることが可能とされているため(労働基準法137条)、契約期間が1年を超えるマネジメント契約において、タレント側からの中途解約を一切認めないような条項は、タレントが実質的に労働者と判断された場合には、無効とされる可能性が高い。

他にも、タレントを長時間業務に拘束し、低廉な対価しか支払われていないケースでは、労働関連法上の最低賃金や労働時間の規制に抵触する可能性があるし、レッスン代を報酬から天引きしているケースでは、労働関連法上の給料の全額払いの原則に抵触する可能性がある。

なお、どのような場合に、実質的に「労働者」に該当するか否かの具体的な判断に際しては、①依頼された業務への諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督、③時間的場所的拘束性、④代替性等の事情が判断要素とされている。特に、芸能タレントについては、旧労働省(厚生労働省)から示されたいわゆる「芸能タレント通達」(昭和63年7月30日基収355号)により、次のいずれにも該当する場合は、労働基準法9条の労働者には該当しないとされており、裁判例においてもこれらの判断基準をベースにしながら、「労働者」性の判断がなされることが多い。

「芸能タレント通達」における労働者の判断要件
以下の4要件を全て満たす場合には、労働基準法の「労働者」にあたらない。

① 当人の提供する歌唱、演技等が基本的に他人によって代替できず、芸術性、人気等当人の個性が重要な要素となっていること。

② 当人に対する報酬は、稼働時間に応じて定められるものではないこと。

③ リハーサル、出演時間等スケジュールの関係から時間が制約されることはあっても、プロダクション等との関係では時間的に拘束されることはないこと。

④ 契約形態が雇用契約でないこと。

近時の裁判例においても、マネジメント会社が、未成年の専属アイドルに対し、契約から約1年後に退職を申し出て、出演予定のイベント出演を拒否したことを理由に、損害賠償請求をした事案において、上記のような判断要素を踏まえて、当該アイドルは、労働基準法及び労働契約法上の労働者に該当すると判断し、有期雇用契約から1年経過後の退職の申出により、マネジメント会社との契約は終了し、イベントへの出演義務は消滅したと判断している(東京地裁平成28年7月7日判決(平成27(ワ)第33606号損害賠償請求事件))。

(3)独占禁止法

芸能事務所とタレントとの間に一定の力関係や交渉力の格差により、タレントに不利な契約内容が定められた場合には、優越的地位の濫用であるとして、独占禁止法上問題となる可能性もある。

実際、公正取引委員会は、芸能分野における独占禁止法上の問題に強い関心を抱いており、令和元年9月25日に公表された「人材分野における公正取引委員会の取組」においては、「芸能分野における独占禁止法上問題となり得る行為の想定例」として以下のような類型を挙げている。

「芸能分野における独占禁止法上問題となり得る行為の想定例」
<芸能人の移籍・独立に関するもの>

・所属事務所が、契約終了後は一定期間芸能活動を行えない旨の義務を課し、又は移籍・独立した場合には芸能活動を妨害する旨示唆して、移籍・独立を諦めさせること(優越的地位の濫用等)
・契約満了時に芸能人が契約更新を拒否する場合でも、所属事務所のみの判断により、契約を一方的に更新できる旨の条項を契約に盛り込み、これを行使すること(優越的地位の濫用等)

・前所属事務所が、出演先(テレビ局等)や移籍先に圧力を掛け、独立・移籍した芸能人の芸能活動を妨害すること(取引妨害、取引拒絶等)

<芸能人の待遇に関するもの>

・所属事務所が、芸能人と十分な協議を行わず一方的に著しく低い報酬での取引を要請すること(優越的地位の濫用)
・芸能人に属する各種権利(氏名肖像権、芸能活動に伴う知的財産権等)を芸能事務所に譲渡・帰属させているにもかかわらず、当該権利に対する対価を支払わないこと(優越的地位の濫用)

<競争政策上望ましくないもの>

契約等を書面によらず口頭で行うことは、直ちに独占禁止法上問題となるものではないものの、優越的地位の濫用等の独占禁止法上問題となる行為を誘発する原因となり得るため、競争政策上望ましくない。

なお、これらの行為が実際に独占禁止法違反となるかどうかは、具体的態様に照らして個別に判断されるものであり、公正取引委員会も、優越的地位の濫用に関して、不当な不利益を与えるか否かは、課される義務等の内容や期間が目的に照らして過大であるか、与える不利益の程度、代償措置の有無やその水準、あらかじめ十分な協議が行われたか等を考慮の上、個別具体的に判断されるとしている。

3 最後に

現在、日本のタレントと芸能事務所との関係は、変革期を迎えており、上記のようなエージェント契約導入の流れもそうであるが、専属マネジメント契約の内容自体も、公正取引委員会の指摘、裁判例の蓄積、新法の制定等を踏まえて、法規制に適合したより適切、健全な形に改定されていくものと考えられる。

現に、多数の芸能事務所も加盟している業界団体である日本音楽事業者協会(音事協)は、2019年に、公正取引委員会の助言を得た上で、アーティストとプロダクション間で締結される専属契約書の標準契約書の内容を改訂している。

また、遅くとも2024年11月頃までに施行予定の「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス新法)についても、芸能事務所が仕事の仲介機能を果たすのみならず、クライアントやキャスティング会社との間でタレントの出演業務等に係る契約を締結した上で、当該業務をタレントに再委託する、という契約構造になっている場合には(専属マネジメント契約を締結している場合にはそのような形が一般的と思われる)、芸能事務所とタレントの委託取引について、同法が適用されるものと考えられる。フリーランス新法においては、委託事業者に対し、下請法と類似する義務規定(発注書面の交付義務、支払期日の設定義務)や禁止規定(支払遅延の禁止、代金減額の禁止、買いたたきの禁止)が設けられているほか、就業環境の整備規定(募集情報の的確な表示、妊娠・出産・育児・介護に対する配慮、ハラスメント行為に関する体制整備等)が設けられているのが特徴的な点であり、例えば、業界で問題になりやすいハラスメントについても、今後、芸能事務所側は、タレントに対し、ハラスメント行為を行わないのはもちろんのこと、より積極的にこれを防止するための体制整備が求められることになろう。

このような流れの中で、タレントと芸能事務所との間で、より適切健全な契約関係が構築され、業界全体が活性化することが望ましいと考える。

弁護士 鈴木 知幸

破産債権の劣後化と破産管財人の対応

2023.10.04

本稿では、特に破産手続の場合に焦点を当てて、破産債権の劣後化と、これに対する破産管財人としての対応について解説します。

 

1 破産債権の劣後化とは

破産債権の劣後化とは、ある破産債権を当該債権者の意思にかかわらず劣後的破産債権とすることをいいます(後掲『破産法・民事再生法(第5版)』311頁)。

民事再生手続および会社更生手続の場合には、「衡平を害しない場合」(民事再生法155条1項但書、会社更生法168条1項但書)には、特定の債権者に対する不平等な扱いが明文で許容されており、これらの再建型手続においては、この「衡平を害しない場合」の文言に該当するかという形で特定の債権者の債権の劣後化が問題になります。

他方、破産法を見ると、194条2項が「同一順位において配当をすべき破産債権については、それぞれの債権の額の割合に応じて、配当をする」という規定を置いているものの、上記の民事再生法155条1項但書、会社更生法168条1項但書に対応する規定は設けられていません。このように、破産手続においては特定の破産債権を劣後化する根拠規定が存在しないものの、後述する裁判例では、破産手続においても、信義則(民法1条2項)を根拠として劣後化が肯定され得るという考え方がとられています。

 

2 劣後化が問題になる場面

破産債権の劣後化が問題となる例としては、子会社の破産における親会社の債権や、会社の破産における取締役など内部者の債権などが挙げられることが多いですが、裁判において劣後化の有無が争われた例としては以下があります。

(1)破産手続における劣後化が争われた例

①東京地判平成3年12月16日(金判903号39頁)(否定例)

この事件は、X社の100%子会社である会社が破産し、X社が金融機関に対する保証債務履行によって取得した事後求償権等を破産債権として届け出たところ、破産管財人Yおよび他の破産債権者から異議を述べられ、X社が破産債権確定訴訟を提起したという事案です。破産管財人Yらは、「制定法上の根拠」、「判例上の根拠」、「倒産法上の一般原則、条理、米国及びドイツ判例法の根拠」を挙げてX社の破産債権が劣後化すると主張しました。

裁判所は、以下のように述べ、結論としてX社の破産債権の劣後化を否定しました。

まず、1点目の「制定法上の根拠」については、「本件破産債権は、破産法46条各号(筆者注:現行破産法99条)に規定する劣後的破産債権のいずれにも該当せず、かつ、本件劣後的取扱いについて、破産法その他制定法上明確に規定する条文は存在しない」と述べました。

次に、2点目の「判例上の根拠」について、破産管財人Yらは後掲の東京高決昭和40年2月11日(下民集16巻2号240頁)および福岡高決昭和56年12月21日(判事1046号127頁)を挙げていました。裁判所は、「そのいずれも会社更生手続に関するものであること、破産法と異なり、会社更生法には同法229条(筆者注:現行会社更生法168条1項但書)という差別的取扱いを許容する明文が存在することなどからすると、右決定事例は、本件と事案を異にする」と述べ、これらの決定を根拠に本件で劣後化を認めることはできないと判断しました。

最後に、3点目の「倒産法上の一般原則、条理、米国及びドイツ判例法の根拠」については、「いずれも本件劣後的取扱いを考える上で参考になるものであるが、未だその要件及び効果が明確になっておらず、我が国における学説上も十分な議論が尽くされているとは言いがたく、発展途上の段階にあるようであるので、現段階の法解釈としては、現行法上本件劣後的取扱いを認めることはできない」と判断しています。

②広島地福山支判平成10年3月6日(判時1660号112頁)(肯定例)

この事件は、破産会社の借入れについて連帯保証していたX社が、当該保証債務の履行によって事後求償権を取得し、その一部を破産債権として届け出たところ、破産管財人Yおよび一部債権者が異議を述べたため、X社が破産債権確定訴訟を提起したという事案です。本件では、X社は単に破産会社の債務を連帯保証していただけでなく、同社の経営全般を管理支配していたという事情がありました。

この訴訟において、破産管財人Yらは、アメリカ法の判例法理である「ディープロック理論」や信義則違反を根拠にX社の破産債権の劣後化を主張していました。ディープロック理論は、アメリカにおいてTaylor v. Standard Gas & Elec.Co,306 U.S.307(1948)等の判決によって形成された法理で、課税負担回避等の目的で出資を減らし貸付を多くする「過小資本」などの場合に、衡平の原則によって特定債権の劣後化を認めるものであり、現在は連邦倒産法510条(c)(2)として条文化されています。

裁判所は、「本件届出債権に対する右法理論(筆者注:前述のディープロック理論)の適用をいうYの主張はそれ自体失というほかない」としつつ、「右法理論の背景にあるとされる『公平(衡平)の原理』は我が国の破産手続においても妥当するものであって、形式的には一般破産債権者とされる者であっても、破産者との関係、破産者の事業経営に対する関与の仕方・程度等によっては、破産手続上他の一般破産債権者と平等の立場で破産財団から配当を受けるべく債権を行使することが信義則に反し許されない場合もあるというべきであり(民法1条2項)、Yらの主張も論旨全体からすると右の信義則違反をいうものと解することができる」と述べ、実体法上の信義則(民法1条2項)を根拠とする破産債権の劣後化があり得ると判断しました(具体的な事例の解決としても、X社と破産会社には資本関係がないことを指摘しつつ、資金面で全面的な支援があったこと、およびX社が破産会社の経営全般を管理支配してきたことなどを重視し、X社の破産債権の劣後化を肯定しています。)。

(2)再建型手続における劣後化が争われた事例

民事再生手続および会社更生手続において債権の劣後化が争われた事例としては、以下の5件があります。本稿はあくまで破産手続との関係に焦点を当てているため、ごく簡単な紹介にとどめます(本稿で紹介した裁判例については、後掲「劣後債権」264頁以下が、清算型・再建型を通じた横断的な分析を行っています。)。

③東京高決昭和40年2月11日(下民集16巻2号240頁)(会社更生・劣後化肯定)

④福岡高決昭和56年12月21日(判事1046号127頁)(会社更生・劣後化肯定)

⑤名古屋高金沢支決昭和59年9月1日(判時1142号141頁)(会社更生・劣後化否定)

⑥東京高決平成22年6月30日(判タ1372号228頁①)(民事再生・劣後化否定)

⑦東京高決平成23年7月4日(判タ1372号233頁②)(民事再生・劣後化否定)

 

3 破産管財人の対応

劣後化の可能性がある債権者から破産債権の届け出がなされ場合、破産管財人としては以下のような対応をとることが考えられます。

(1)取下げ勧告による和解的処理

前述のとおり、劣後化について明文規定を欠く破産手続において、破産管財人の実務上の対応としては、劣後的取扱いをするべき事情がある破産債権者に対して、債権届出しないように促すことが考えられます。また、債権届出がなされた場合には、一種の和解的処理を実現するため任意の交渉を通じて、破産債権の全部または一部を取り下げるよう勧告するといった対応が行われています。

(2)異議(いわゆる戦略的異議)

上記のような勧告に従わない場合には、前述の広島地福山支判平成10年3月6日(判時1660号112頁)のように信義則(民法1条2項)等を根拠として、破産債権に異議を述べることがあります。

(3)役員の任務懈怠に基づく損害賠償請求権との相殺処理

さらに、劣後化が問題になる債権者が破産会社の役員であった場合には、破産管財人として当該役員を相手方とした役員責任査定の申立て(破産法178条)を行い、当該役員に対する損害賠償請求権を自働債権として相殺または相殺的処理を行うという方法もあり得るところです。

(4)その他

なお、代表者の破産会社に対する債権の劣後化が問題になる場合であっても、代表者も破産手続開始決定を受けているときには、代表者の破産会社に対する貸付債権等(=破産債権)は代表者の破産財団を構成し、代表者の破産事件での配当原資にもなることから、通常は異議を述べる必要はないとされています(後掲『破産管財の手引(第2版)』287頁)。

 

参考文献

・伊藤眞『破産法・民事再生法(第5版)』(有斐閣・2022年)311頁

・中山孝雄・金澤秀樹編『破産管財の手引(第2版)』(きんざい・2015年)286頁

・岡伸浩ほか『破産管財人の債権調査・配当』(商事法務・2017年)305頁

・杉本和士「劣後債権」園尾隆司・多比羅誠編『倒産法の判例・実務・改正提言』261頁

・髙木新二郎『アメリカ連邦倒産法』(商事法務研究会・1996年)204頁

・福岡真之介『アメリカ連邦倒産法概説(第2版)』(商事法務・2017年)220頁

 

弁護士 元由 亮

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