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中小企業再生支援協議会/単独型/賃貸借契約の保証債務を対象外債権としつつ対象債権と按分弁済した事例紹介

2021.05.25

主債務者破産時における経営者保証ガイドライン手続(以下「GL手続」という。)には、①特定調停を利用する方法、②中小企業再生支援協議会を利用する方法、③準則型手続を利用せず任意交渉による方法の3つがある。

今般、当職が、代理人として、主債務者の自己破産を申し立てるとともに、代表者である保証人については、上記②の方法で保証債務を整理した案件(以下「本件」という。)に関与したので、その概要について紹介する。

なお、本件は、主債務者の破産事件が異時廃止で、同事件において保証人の債権者への配当がなく、また、主債務者が運営していた施設の賃貸借契約の保証を、保証人がしていたため、保証人の債権者に、金融債権のみならず取引債権(未払賃料債権及び原状回復請求債権)が含まれていたという特殊性があり、単独型(通称「のみ型」)スキームで、インセンティブ資産を確保しつつ全債権者から同意を得るためには、いくつかのハードルがある案件であった。

以下、GL手続の利用要件を確認したうえで、本件の概要とポイントを紹介する。

1 GL手続利用要件

保証人がGL手続を利用するためには、経営者保証ガイドライン(以下「GL」という。)が定める以下の各要件をみたす必要がある。

① 保証契約の主たる債務者が中小企業であること(GL3(1)、7(1)イ)

② 保証人が個人であり、主たる債務者の経営者であること(GL3(2))

③ 主たる債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等(負債の状況を含む。)について適時適切に開示していること(同(3))

④ 主たる債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと(同(4))

⑤ 主たる債務者が、法的債務整理手続又は準則型私的整理手続の申立てをGLの利用と同時に現に行い又はこれらの手続が係属し、若しくは既に終結していること(GL7(1)ロ)

⑥ 主たる債務者及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済的な合理性が期待できること(GL7(1)ハ)

⑦ 保証人に免責不許可事由(破産法252条1項)が生じておらず、そのおそれもないこと(GL7(1)ハ)

2 本件における主債務者と保証人の概要

(1)主債務者

業種:結婚式場運営会社

設立:平成13年

従業員:約25名

負債:約11億円(公租公課・仕入先・賃料・労働債権に滞納あり)

窮境原因:コロナ禍による結婚式需要の激減

破産配当:なし

(2)保証人

役職:代表取締役社長

年齢等:56歳・男性

家族:妻(専業主婦)

資産:現預金 約380万円

    不動産 区分所有建物(再生支援協議会取得の査定額 約4500万円 無担保)

    保 険 解約返戻金約63万円

    自動車 査定額80万円

    債権者:金融債権者(保証協会含む)5社、取引債権者2者(法人1社・個人1名)

3 GL手続利用によるメリット

(1)破産とGLの比較

一般的な、破産とGLの比較は、下表のとおりである。

破産 GL
対象債権者 全債権者 ・本来的対象債権者:保証債権を有する金融機関、保証協会、サービサー・例外的対象債権者:リース債権・商取引債権の保証債権者、固有債権者
利用要件 ・支払不能

・免責不許可事由非該当(免責を得るための要件。該当しても裁量免責の可能性あり)

・中小企業経営者

・主債務者・保証人が弁済について誠実,財産状況等の適時適切な開示

・主債務者・保証人が反社会的勢力ではない

・主債務者の法的整理・準則型手続

・経済合理性

・保証人に免責不許可事由が生じていない

債権者の同意 不要 対象債権者全員の同意が必要
残存資産 自由財産 ①自由財産

②インセンティブ資産

・華美でない自宅

・一定期間の生計費(月数×33万円)等

メリット ・すべての債務を整理できる

・債権者の同意が不要

・手続の予測可能性高い

・破産をせずに債務を整理することができる

・破産よりも資産を多く残すことができる

・信用情報登録機関に登録されない

・官報に掲載されない

デメリット ・自由財産しか残存資産にできない

・信用情報登録機関に登録される

・官報に掲載される

・対象債権者全員の同意が必要

・手続着手時の予測可能性が十分ではない

・対象外債権者をGL手続に取り込めない可能性がある

(2)本件におけるメリット

本件では、自己破産ではなくGL手続を利用することにより、以下のメリットがあった。

▶インセンティブ資産(最大363万円[1])の残存資産化 *自由財産99万円を含まない

▶信用情報登録機関への報告・登録の回避

▶自己破産時を上回る債権者への弁済

▶リーズナブルな手続費用[2]

なお、保証人の自宅マンションは、華美でない自宅であれば、残存資産として認められる余地があったが、ターミナル駅の駅近マンションであったため、再生支援協議会とも協議のうえ、任意売却をして、売却代金を配当原資とした。

4 本件特有の問題点

(1)主債務者の破産事件が、ほぼ確実に異時廃止となる見込みであったこと

GL手続における経済合理性は、主債務と保証債務の回収見込額を一体として判断することとされている(GL7(3)③なお書き、GLQA7-4、7-13)。本件では、主債務者の破産事件が、ほぼ確実に異時廃止となる見込みであったことから、主債務者からの回収見込額がなく、インセンティブ資産を確保することが難しい案件であったが、以下の各事情を根拠に対象債権者と交渉し、自由財産である99万円に加え、インセンティブ資産として上限額である363万円を残存資産とする内容の弁済計画を成立させることができた。

▶コロナ禍にもかかわらず、相場を大幅に上回る6380万円で自宅不動産を、任意売却できたこと[3]

▶主債務者が運営していた主たる結婚式場を事業譲渡(保証人の交渉を承継した保全管理人による譲渡)したことにより、主債務者の債務及び保証人の保証債務約7000万円について免除を受けたこと

▶保証債権を有する取引債権者と交渉し、届出債権について相当額の譲歩を得たこと

(2)保証人の債権者に、金融債権のみならず取引債権が含まれていたこと

GLが想定している対象債権者は、中小企業に対する金融債権を有する金融機関等(GL1)であるが、弁済計画の履行に重大な影響を及ぼす恐れのある債権者については、対象債権者に含めることができるとされている(GL7(3)④ロなお書き)。一般に、保証人の債権者に金融機関等ではない取引債権者が含まれる場合、以下の4つの処理方法があるとされている。
① 対象債権として処理する方法

対象外債権者を対象債権者として扱い、一体的に処理する方法

② 対象外債権として処理する方法

②-1 対象債権と同率の弁済及び債務免除をする方法

対象外債権者を対象債権者と平等に扱い、一体的に処理する方法

②-2 対象債権と異なる率の弁済及び債務免除をする方法

対象外債権者を対象債権者よりも優先的に扱い、一体的に処理する方法

③ 全額弁済をする方法

対象外債権者は全額弁済し、一体的に処理する方法

本件では、保証債権を有する取引債権者の理解が得られたことから、②-1の処理方法をとり、取引債権についても弁済計画案に対象外債権として債権額、弁済額等を明記して手続の公平性・透明性をはかりつつ、形式的には取引債権をGL手続の対象外として扱った。

他方で、一部の対象債権者(金融機関等)は、GL手続において、金融債権以外の純粋な取引債権を一体処理した実績がないとの理由で、最後まで弁済計画案に対する同意に難色を示した。具体的には、GL手続で処理できるのは、金融債権のみで、過去にもGL手続で処理したことがある純粋な金融債権以外の債権は、カードローン債権のみなので、本件の取引債権である未払賃料債権及び原状回復請求債権(債権者2者、合計債権額約2800万円)に対する弁済は、弁済原資からではなくインセンティブ資産(残存資産)から行うべきという主張であった。このような考え方は、単独型スキーム自体を否定するとともに、全債権者を公平に扱うという倒産法の大前提となる理念にも反するものであったため、再生支援協議会とともに粘り強く説得にあたり、最終的には、当該一部の対象債権者を含む、保証人の全債権者から弁済計画案に対する同意を得るに至った。

5 まとめ

主債務者が法的債務整理手続をとる場合、保証人の債権者に、金融債権以外の取引債権が含まれる場合であっても、インセンティブ資産となり得る資産が存在するときは、保証人の債務整理について、まずは、GL手続における単独型スキームをファーストチョイスとして検討することになると思われる。今後、単独型スキームの活用が増えることが予想されるため、本稿が、保証人の債務整理における手続選択の一助になれば幸いである。


 

[1] GLは、「・・・一定期間の生計費に相当する額・・・を、当該経営者たる保証人の残存資産に含めることを検討することとする。」とし、一定期間については、「当該期間の判断においては、雇用保険の給付期間の考え方等を参考とする。」としている。「一定期間の生計費に相当する額」の生計費については、「当該費用の判断においては、1月当たりの標準的な世帯の必要生計費として民事執行法施行令で定める額を参考とする。」とされており(GL7(3)③)、1月当たりの標準的な世帯の必要生計費として民事執行法施行令で定める額は、33万円である。また、保証人が「45歳以上60歳未満の場合」の雇用保険の最大給付日数は330日であるから、上記年齢における「一定期間の生計費に相当する額」の上限額は、33万円×11ヶ月(330日÷30日)=363万円となる。

[2] 再生支援協議会が調査を委託した専門家費用は、本件においては20万円(税別)であった。

[3] 前述したとおり、再生支援協議会が取得した査定額は、約4500万円であった。


 

参考文献
野村剛司編著『実践 経営者保証ガイドライン』青林書院、87頁、97頁、208~211頁
小林信明・中井康之編『経営者保証ガイドラインの実務と課題(第2版)』商事法務


 

弁護士 増田 智彦

 

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