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民法改正と契約書~第3回 危険負担~

2019.11.13

1 改正の概要

(1)危険負担一般

平成29年改正前民法(以下「旧法」)では、当事者双方の帰責事由によらずに、債務者の債務が履行不能となった場合には、債権者の反対給付債務も消滅することとされていました(旧法536条1項。たとえば、台風等の天変地異により、債務の履行が不能となった場合には、債権者の対価の支払義務も当然に消滅することになっていました。)

しかし、今回の改正により、当事者双方の帰責事由によらずに履行不能となった場合でも、債権者は契約を解除することができることになりました(改正民法541条)。そのため、旧法536条1項をそのまま残しておくと、当事者双方の帰責事由によらずに債務者の債務が履行不能となった場合、「債権者は改正民法541条により、契約を解除して反対給付債務を消滅させることができる」のにもかかわらず、「債権者の反対給付債務は、旧法536条1項により当然に消滅している」ということになり、条文間に矛盾が生じることになりました。

上記の矛盾を解消し、条文間の整合を図るため、旧法536条1項の内容は、以下のとおり改正されました。

 

旧法

改正法

当事者双方の帰責事由によらずに債務の履行が不能となった場合

債権者の反対給付債務は当然に消滅する
(旧法536条1項)

債権者の反対給付債務は当然には消滅しないが、債権者は反対給付債務の履行を拒絶することができる
(改正法536条1項)

債権者の帰責事由により、債務の履行が不能となった場合

債権者の反対給付債務は消滅しないため、債権者は反対給付債務の履行を拒絶できない。
ただし、債務の履行が不能となったことにより、債務者が利益を得た場合には、その利益を債権者に償還しなければならない(旧法536条1項)

変更なし(改正法536条2項)

 

(2)売買契約及びその他有償契約の場合

売買目的物(特定物の目的物として特定されたものに限ります。以下、単に「目的物」)の滅失又は損傷については、改正法567条が新設されました。

この改正により

 

目的物を引き渡した後に、目的物が当事者双方の帰責事由によらずに滅失、損傷した場合には、買主はその滅失・損傷を理由とする履行の追完請求(完全なものの引渡請求)、代金の減額請求、損害賠償請求等をすることができない

売主が契約内容に沿う目的物を提供したのにもかかわらず、買主がその受領を拒絶した、あるいは受領ができない場合において、売主の目的物の提供後に当事者双方の帰責事由によらずに目的物が滅失、損傷した場合にも、買主はその滅失・損傷を理由とする履行の追完請求(完全なものの引渡請求)、代金の減額請求、損害賠償請求等をすることができない

①、②の場合において、買主は代金の支払いを拒絶できない

 

ということになります。

 

なお、①や②の場合に売主が提供したものに欠陥があった場合には、契約内容に適合しないものを提供したことについての債務不履行責任を追及することはできますまた、改正法567条は任意規定であるため、危険の移転時期を引渡し時以外とすることも可能です。

 

2 危険負担にかかる規定の改正に伴うその他の変更点

今回の改正に伴い、特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合の危険負担の規定である旧法534条、停止条件付双務契約の目的物が、条件の成立前に損傷した場合の規定である旧法535条が削除されました。旧法534条と535条の削除により、上記の場合も改正法536条、567条により規律されることになります。

 

3 契約書への影響

旧法のもとでは、改正法567条のように売買契約における危険の移転時期を定める条文がなかったため、継続的売買契約の場合等に以下のような条文を設けることがありました。

 

1 商品の所有権は甲の検品が完了した時点をもって、乙から甲に移転する。

2 甲の検品が完了する前に生じた商品の滅失、損傷その他の損害は、甲の責めに帰すべきものを除いて乙が負担し、検品後に生じた商品の滅失、損傷その他の損害は、乙の責めに帰すべきものを除いて甲が負担する

 

改正法567条により、危険の移転時期が引渡し時とされましたが、危険の移転時期を引渡し時以外とする場合は、契約書にその旨を定めることになります。また、移転時期を明確にするため、注意的に契約書に記載してもよいため、従前のような条項を設けることに特段の問題はないと考えられます。

弁護士 六角 麻由

 

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