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民法改正と契約書~第9回 契約不適合責任~

2020.10.07

1 改正の概要

売買の規定に関しては様々な改正がされましたが、特に平成29年改正前民法のいわゆる瑕疵担保責任について大きな変化がありました。

従前、売買契約の目的物に隠れた瑕疵がある場合(買主が瑕疵について善意無過失である場合)には、瑕疵担保責任が認められるとされていました。今回の改正により、売買契約の目的物に、契約の趣旨に適合しないものがあった場合、買主の瑕疵への認識にかかわらず、追完請求・修補請求や代金減額請求が認められることになりました。また、従前の「瑕疵」との文言が「契約の内容に適合しない」とされ、以下のように、内容だけでなく表現も大きく変わっています。

 

(1)買主の追完請求権

今回の改正により、売買の目的物について「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(以下「契約不適合」といいます。)には、買主は売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができると定められました(改正民法562条1項)。

目的物が「契約の内容に適合しない」か否かは、「契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯その他の事情に基づき、取引通念を考慮して定まる」とされており、契約の内容だけではなく取引通念も考慮して総合的に判断されます。

目的物の修補と代替物の引渡しが両方とも可能である場合、原則として買主が追完方法を選択できますが、売主が選択する追完方法が買主に不相当な負担をかけるものでなければ、売主が選択できます。なお、契約内容の不適合が売主の帰責事由によるものである場合、買主は追完請求ができません(改正民法562条2項)。

(2)買主の代金減額請求権

 ア 催告による代金減額請求

売買の目的物に契約不適合があった場合、買主が売主に相当期間を定めて履行の追完を催告し、その期間内に履行の追完がされない場合には、買主は不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができます(改正民法563条1項)。この代金減額請求は、売主の帰責事由にかかわらず認められるものであるため、売主は契約不適合が売主の責めに帰することのできない事由によるものであるとの抗弁を主張することはできません。

イ 無催告での代金減額請求

また、以下の場合には、買主は催告をすることなく、直ちに代金の減額を請求することができます(改正民法563条2項)。

・履行の追完が不能であるとき

・売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき

・契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき

・上記のほか、買主が改正民法563条1項に定める催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき

ウ 代金減額請求ができない場合等

契約不適合が買主の責めによるべき事由である場合、買主は代金減額請求ができません(改正民法563条3項)。また、代金減額請求は契約の一部解除の側面を有するものであるため、代金減額請求をしながら契約を一部又は全部解除することができません。

(3)契約解除の規定

従前、平成29年改正前民法の瑕疵担保責任は法定責任であると解され、これにより発生する損害賠償の範囲はいわゆる信頼利益に限られると考えられてきました。しかし、今回の改正により、契約不適合責任は債務不履行責任の一つであると整理されたため、契約不適合があった場合、債務不履行の一般規定により契約の解除、損害賠償の請求ができることが明らかにされました(改正民法564条)。

また、賠償の範囲についても、信頼利益だけでなく履行利益も含むこととなり、特別事情による損害についても、認められる可能性があります。

(4)解除の期間制限

平成29年改正前民法のもとでは、瑕疵担保責任に基づく解除及び損害賠償請求は、買主が瑕疵を知ったときから1年以内に行わなければならないとされていました(平成29年改正前民法570条、566条3項)。請求にあたっては「売主に対し、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の根拠を示す」ことまで必要であり、しかも1年の除斥期間内に行うべきとされていました。

今回の改正により、売買の目的物に種類又は品質に関する契約不適合があった場合、買主が契約不適合を知ったときから1年以内にその旨を売主に通知しなければならないとされました(改正民法566条)。契約不適合の事実を通知すれば足りるため、従前よりも通知の負担は軽減されることになります。他方、目的物の数量等に関する契約不適合の場合、外形的に不適合があることが明らかであるため、消滅時効の規定(改正民法166条1項)によることになります。

なお、売主が目的物の引渡時に契約不適合の事実を知り、又は重過失により知らなかった場合には、1年の期間制限は適用されず、一般の消滅時効の規定によることとなります。また、商人間での売買における買主の検査及び通知義務(商法526条)の規定は維持されているため、従前どおり検査をする必要があります。

(5)競売の場合の担保責任について

平成29年改正前民法570条ただし書きでは、競売の場合、物に関する瑕疵担保責任の規定は適用されないとされていました。しかし、今回の改正により競売の目的物に種類又は品質に関する不適合以外の不適合(数量不足)及び権利に関する不適合があった場合には、契約の解除又は代金減額請求ができる旨を規定しました(改正民法568条1項~4項)。

数量不足に関しては、数量指示売買に該当しなくても、代金減額が認められる点で従前より扱いが異なることになります。

(6)目的物の滅失等についての危険の移転

従前、売買の目的物が当事者双方の責めに帰することのできない事由により滅失・損傷した場合には、原則として目的物の引渡時に危険が移転するとされてきました。

今回の改正により、売買の目的物が当事者双方の責めに帰することのできない事由により滅失・損傷した場合には、その滅失又は損傷を理由とする履行の追完請求や代金減額請求、損害賠償請求又は解除ができず、買主は代金支払義務を免れることができないとされました(改正民法567条1項。ただし、引渡後の滅失・損傷を理由として追完請求等ができないのみで、目的物に契約不適合があった場合、債務不履行責任を追及することは可能です。)。

また、売主が契約内容に適合する目的物を提供したにもかかわらず、買主が受領を拒んでいる間に、当事者双方の責めに帰することのできない事由により目的物が滅失・損傷したときも、上記と同様の扱いとなります(改正民法567条2項)。

 

2 経過措置

改正民法施行日前に締結された売買契約及びこれに付随する買戻しその他の契約については、なお従前の例によるとされています(附則34条)。したがって、売買契約締結日が改正民法施行日前後であるか否かによって適用される規定が異なります。

 

3 契約書に与える影響

売買契約の目的物が契約に適合しているか否かは、従来の瑕疵担保責任における瑕疵と同様、取引通念等を考慮して総合的に判断されるため、適合しているかどうかの判断基準は改正前後で変わりがないと考えられます。

他方、目的物に契約不適合があった場合の追完請求権(改正民法562条1項)の規定は任意規定であるため、買主の追完請求権、売主による追完方法の指定を排除することも可能です。しかし、契約の相手方が消費者である場合、消費者契約法違反の問題が生じるものであるため、同法に違反しないよう内容を精査する必要があります。

 また、今回の改正により目的物の滅失等による危険の移転のタイミングが引渡時であることが明らかにされましたが(改正民法567条1項)、任意規定であるためこれと異なる危険の移転時期を定めることも可能です。

弁護士 六角 麻由

 

民法改正と契約書~第8回 債権譲渡~

2020.10.07

1 改正の概要

平成29年改正前民法のもとでは、

・一身専属権等、性質的に譲渡ができない債権を除き、債権は自由に譲渡できる。

・ただし、債権者と債務者の間で、債権譲渡を禁止する特約は有効。したがって、当事者の合意により、債権譲渡を不可能とすることができる。

・債権の譲受人が債権譲渡禁止特約について善意かつ無重過失であった場合、債権譲渡禁止特約を譲受人に対抗することができず、債権譲渡は有効となる。

とされていました(平成29年改正前民法466条)。

しかし、最近では債権譲渡禁止特約があることで、債権譲渡による資金調達が妨げられている等の問題が生じたため、改正民法では債権譲渡禁止特約が付されている債権についても、債権譲渡は有効とされる等(改正民法466条)、債権譲渡について大きな改正がなされました。

(1)債権譲渡を制限する特約が付された債権の譲渡の効力

今回の改正により、債権譲渡を制限する特約が付された債権の譲渡は、譲受人が特約を認識していたか否かにかかわらず、有効となりました(改正民法466条2項)。ただし、譲受人が譲渡制限特約を認識していたかどうかによって、債務者が取りうる対応が変わってきます。

ア 譲受人が譲渡制限特約について善意又は、特約を知らないことについて重過失がない場合

債権譲渡は有効であり、譲受人が債務者に対する債権譲渡の対抗要件を具備していれば、債務者は譲受人に履行をしなければなりません。

 

イ 譲受人が譲渡制限特約について悪意又は、特約を知らないことについて重過失がある場合

この場合も債権譲渡は有効ですが、債務者は次の対応をとることができます。

(ア)譲受人に債務の履行を行う。

(イ)譲受人に対する債務の履行を拒絶し、債権者(譲渡人)に対する弁済等の履行をして、債権が消滅したらその旨を譲受人に主張する(改正民法466条3項)。
なお、債務者が譲受人への履行を拒絶し、債権者(譲渡人)からの履行請求にも、債権譲渡を理由に履行を拒絶することを防止するため、譲受人は債務者が債務を履行しない場合、次のような対応をとることができます。

①譲受人その他の第三者が債務者に対し、相当期間を定めて債権者(譲渡人)へ弁済等の履行をするよう催告する。

②その期間内に履行がされなければ、債務者は譲受人への弁済拒絶等の改正民法466条3項に定める抗弁を主張できなくなるので(改正民法466条4項)、譲受人が自分への履行を請求する。

(ウ)(金銭の給付を目的とする債権の譲渡の場合)供託をする(改正民法466条の2第1項)。
ウ なお、譲渡制限特約付きの金銭債権が譲渡され、その後債権者(譲渡人)が破産した場合には、その債権の全額を譲り受けた者が譲渡制限特約について悪意又は重過失であっても、債務者に供託を求めることができます(改正民法466条の3)。

(2)悪意の譲受人の債権者が差押えをした場合の効力について

前記(1)イ(イ)のとおり、債務者は、譲渡制限特約について悪意又は知らなかったことについて重過失のある譲受人その他の第三者への履行を拒絶できます。この場合、譲受人の債権者が譲渡債権を差し押さえたとしても、債務者は譲受人の債権者に対し、履行を拒絶することができ、債権者(譲渡人)への履行をすることが可能です(改正民法466条の4第2項)。

(3)将来債権の譲渡性の明文化

平成29年改正前民法では、将来発生する債権の譲渡については、明文の規定がありませんでしたが、有効であるとされてきました。今回の改正により、将来債権の譲渡が有効であるとの規定が新たに設けられ(改正民法466条の6第1項)、譲渡後に債権が発生した場合には、譲受人が発生した債権を当然に取得することが明らかにされました(同条第2項)。

また、将来債権の譲渡について、債務者への対抗要件が具備されるまでの間に譲渡制限の意思表示がされた場合、譲受人は特約について悪意とみなされます(改正民法466条の6第3項)。

(4)債権譲渡の対抗要件について

平成29年改正前民法では、債務者が「異議をとどめない承諾」をすることで、債権者(譲渡人)に主張できた抗弁を譲受人に対抗できなくなるとされていました(平成29年改正前民法468条1項)。今回の改正により、異議をとどめない承諾による抗弁切断の規定が廃止されたため、今後、債務者から抗弁の放棄を受けるためには、放棄の意思表示を得る必要があります。

(5)相殺について 

平成29年改正前民法では、債務者が譲受人に抗弁を主張できる場合については、改正前民法468条2項の規定しかなく、債務者が相殺を主張できる場合は解釈に委ねられていました。

今回の改正によって、債務者は、対抗要件が具備される前に取得した譲渡人に対する債権による相殺を譲受人に対抗できる(改正民法469条1項。なお、対抗要件具備後に他人に対する債権を取得した場合は相殺を対抗できません。)ことが明らかにされました。

また、債権者が対抗要件具備後に取得した債権者(譲渡人)に対する債権であっても、①対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権、②譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権、であれば、債務者は譲渡人に対する債権による相殺を譲受人に対抗できるとされました(改正民法469条2項)。

ここでいう譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて発生した債権とは、「譲渡された将来の売買代金債権と、当該売買代金債権を発生させる売買契約の目的物の瑕疵(契約不適合)を理由とする買主の損害賠償請求権との相殺」が例として挙げられます。今後は、どのような債権が上記②の債権に該当するのか、判例・実務の集積が待たれます。

 

2 経過措置

改正民法施行日前に債権譲渡の原因である法律行為(売買等)がされた場合の債権譲渡については、平成29年改正前民法が適用されます(附則22条)。

 

3 契約書に与える影響

これまでは、継続的な取引を行う際の基本契約で、債権譲渡禁止特約を付している例が多数ありましたが、今後は譲渡禁止特約を付していても債権譲渡が有効とされるため実務に大きな影響があります。なお、債権譲渡が有効とされたとしても、譲受人が譲渡制限特約について悪意又は重過失であれば、債務者はなお債権者(譲渡人)に弁済をして譲受人に対抗することができるため、譲渡制限特約を設ける意義はなお存続するものと考えられます。

弁護士 六角 麻由

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