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新型コロナウイルス法律相談第2回「株主総会開催」

2020.06.25

【質問】

1. 新型コロナウイルスの問題に起因して定時株主総会の開催準備が遅延しているときにどのような措置をとることができますか。

2. 定時株主総会の開催にあたり、新型コロナウイルスの感染を防止するためにどのような措置をとることができますか。

 

【回答】

1. 定時株主総会の開催準備が遅延しているときにとり得る措置

(1) 定時株主総会の開催を延期すること(基準日の変更)

定款に定時株主総会の開催時期を定めている場合でも、天災その他の事由に起因して所定の時期に開催できない状況が生じたときにまで、例外を許さないものではないと解されます。したがって、先般の新型コロナウイルスの感染拡大によって、定款の定める時期に定時株主総会を開催できない状況にある場合には、その状況が解消されたのち合理的な期間内にこれを開催すればよいと考えられます。この場合、会社は、新たに議決権を行使するための基準日を定めて、当該基準日の2週間前までに公告する必要があります(会社法第124条3項本文)。

(2) 2段階に分けた定時株主総会の開催(「継続会」の利用)

新型コロナウイルスの問題に起因して、事業報告や計算書類の内容報告などの準備に遅れが生じ、これらの報告が予定された定時株主総会の期日に間に合わない場合も考えられます。このような場合には、以下のように、「継続会」の制度を利用することにより定時株主総会を2段階に分けて開催することができます。

株主総会ではその延期または続行の決議をすることができ(会社法第317条)、これらの決議に基づいて後日開催される株主総会を「継続会」と呼びます。

この「継続会」を利用して、定時株主総会を2段階に分けて開催する方式をとることができます。この方法による場合、まずは予定どおり株主総会を開いて剰余金の処分や役員の選任などを決議するとともに、継続会の期日及び場所をも決議し、これに従って後日継続会を開催して計算書類の内容等の報告などを行うことになります。

2. 定時株主総会の開催に当り新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための措置

(1) 「3密」の発生を避けるための方策

株主総会の会場に多数の株主が来場した場合、3つの「密」(密閉・密集・密接)が生じてしまうことが懸念されます。そこで、株主の健康への影響を考慮して、以下の措置をとることが考えられます。

①株主総会の招集通知などで、感染拡大防止の一環として、株主に来場を控えるように呼びかけること。(この場合、書面や電磁的(デジタル)方法により事前に議決権行使を行うための方法を案内することが望まれます。)

②自社の会議室を利用するなど、例年より会場の規模を小さくすることにより入場できる株主の人数を制限すこと。

③株主総会への出席希望者に事前の登録を依頼し、事前登録した株主を優先的に入場させること(この場合、すべての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、株主総会への出席の機会を不公正に奪わないように配慮が必要となります)。

④さらに、株主総会を開催するための会場を設定しつつも、株主は会場にて出席せずに開催することも可能です。この場合、決議の成立に必要な定足数や賛成数などの要件は、書面や電磁的方式による事前の議決権行使を認めることにより満たすことになります。

⑤また、株主総会の会場にいない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に参加して審議を傍聴する方式、または、株主総会に出席して審議に加わり議決権を行使する方式をとることも可能です(ハイブリッド型バーチャル株主総会)。

(2) その他の感染拡大の防止のための方策

株主総会に来場する株主等への感染を防止するために、以下のような措置をとることが考えられます。

①一部の役員につきウェブ会議システムを用いて出席すこと。

②入口に検温器を設置したり、発熱や咳などのウイルスの罹患が疑われる症状を有する方の入場をお断りしたり、退場してもらったりすること。

株主が会場に滞在する時間を短縮するために、報告事項につき詳細説明を省略する、議事の時間を短くする、株主総会後の交流会等を中止するなどの対応をとること。

弁護士 根本 農

新型コロナウイルス法律相談第1回「休業手当」

2020.06.25

【質問】

今後ふたたび新型コロナウイルスの感染が拡大し、再度の緊急事態宣言が出されるに伴って政府が従業員への感染防止を目的として通勤をやめるように強く要請する事態に至った場合、会社が従業員に休業させる際に休業手当を支払う必要がありますか(※注)。

 

【回答】

1.労働基準法上、従業員の休業が「使用者の責に帰すべき事由」による場合には休業手当の支給が必要となります。

2.在宅勤務など代替の就業方法がないかどうかを十分に検討しても従業員を業務に従事させることが不可能であるときには「不可抗力」による休業といえるので、休業手当の支給は不要となります。

3.但し、「不可抗力」による休業の場合でも、会社が任意で休業手当を支給することは可能です。また、状況に応じて「雇用調整助成金」を利用することも考えられます。

 

【解説】

労働基準法第26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定めます。この手当は一般に「休業手当」と呼ばれます。

政府の強い要請に従って、新型コロナウイルスへの感染防止を目的として従業員を休業させる場合に、「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたるものとして、休業手当の支払が必要となるのでしょうか。

一般に、休業が「不可抗力」による場合には「使用者の責に帰すべき事由」には該当せず、休業手当の支給は不要と解されています。そして、ここにいう「不可抗力」とは、行政解釈によれば以下の2つの要件を満たす必要があります。

①原因が事業(人的・物的営業設備)の外部より発生すること
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

 新型コロナウイルスの問題における「不可抗力」の解釈について、厚生労働省は以下の見解を示します。

例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、『使用者の責に帰すべき事由による休業』に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。

厚生労働省の見解は、たとえ感染防止を目的として通勤をさせない場合であっても、使用者に対し、従業員の収入の途を閉ざさないように可能な限り代替の就業方法を確保することを求めているものと解されます。

以上より、在宅勤務などの代替の就業方法がないかどうかを十分に検討したうえで、業務に従事させることが不可能であるときは、休業が「不可抗力」によるものですので休業手当を支払うことは不要となります。

但し、休業手当の支払が不要な場合でも、会社が任意にこれを支払うことは禁止されません。

また、何らの手当をも支払わずに休業させた場合には、従業員の生活が困窮してしまう、または従業員が退職してしまう等の懸念もあると思います。したがって、会社の判断により休業手当を支給することも考えられます。

また、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、休業等の措置により従業員の雇用を維持したときは「雇用調整助成金」を受給できる場合があります。特に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主については「雇用調整助成金」の支給要件を緩和する特例措置が設けられていますので、この制度を利用することも考えられます。

※注:この場合、厳密には、従業員が給与(賃金)全額を請求できるかも問題となり得ます。使用者の措置により従業員が就業できなくなった場合は、民法の危険負担(民法536条2項)の考え方にもとづき、就業できないことが使用者の責に帰すべき場合(これは、故意・過失または信義則上これと同視すべき場合を指すと考えられています。 )には賃金の請求権が肯定されますが、少なくとも再度の緊急事態宣言に伴う政府の強い要請に従って従業員を休業させる場合において、上記の意味での使用者の帰責性が認められることは考えがたく、したがって賃金の請求権が認められる可能性は低いものと考えます。

弁護士 根本 農

新型コロナウイルス法律相談記事の連載を始めます

2020.06.25

本年5月に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が解除されてからも、引き続きの感染予防対策や「新しい生活様式」への対応が求められています。当事務所にも新型コロナウイルス感染症拡大に関連するご依頼・ご相談が多数寄せられていますが、このたび、新型コロナウイルス感染症拡大に関連する様々な法律問題について、当ブログに掲載を始めることにしました。

日常の疑問点の解決や、当事務所にご依頼・ご相談される際の参考にしていただければと思います。

民法改正と契約書~第4回 損害賠償~

2020.06.23

1 改正の概要

(1)債務不履行責任一般

平成29年改正前民法415条では、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」として、債務不履行があった場合に損害賠償請求ができる旨を定めていました。この規定については、規定内容の明確化等のため、以下の改正がされました。

ア 債務不履行責任の免責について

平成29年改正前民法415条では、後段の履行不能の場合にだけ帰責事由の有無が問題となり、前段の履行遅滞等の場合には帰責事由による免責がないような規定ぶりになっていましたが、判例ではどちらの場合でも、債務者に帰責事由がなければ免責される(損害賠償義務を負わない)と解されていました。この点を明らかにするため、改正民法415条1項では、以下のとおり文言が改められました。

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない

イ 帰責事由の判断基準の明示

また、改正民法415条1項では、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の通念」により債務者の帰責事由の有無を判断することとされ、判断基準が明確にされました。ここでいう「契約その他の債務の発生原因及び取引上の通念」とは、契約内容(契約書の記載内容)だけでなく、契約の性質(有償か無償か)、当事者の契約締結の目的、契約締結に至る経緯等の一切の事情を含むとされています。

ウ 填補賠償請求権の明確化

改正民法415条2項では、①債務の履行が不能である場合、②債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき、③債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき、には、債務の履行に代わる賠償(填補賠償)ができる旨を新たに規定しました。

債務の履行期前に上記①~③の事情が発生した場合でも、填補賠償は認められますが、②の履行拒絶の意思は履行不能に匹敵するほど強固なものでなくてはならず、履行期前の交渉で相手方が履行を拒絶しただけでは填補賠償は認められません。

エ 経過措置

新法施行日(令和2年4月1日)前に債務が生じた場合の債務不履行責任については、平成29年改正前民法が適用されることになります。したがって、債務が新法施行日前に発生したものかどうかによって、適用される規定が異なります

ただし、新法施行日前に売買契約が締結され、新法施行日後に債務不履行が発生した場合には、なお平成29年改正前民法が適用されるので、注意が必要です。

 

(2)損害賠償額の予定

ア 改正点

平成29年改正前民法420条では、当事者は債務不履行による損害賠償額の予定をすることができ、この場合裁判所は予定された額を増減することができないとされていました。

しかし、実際には多くの裁判例で、賠償額の予定のうち、著しく過大である部分については、信義則等を理由として無効とされており、規定と実際の運用に齟齬が生じていました。

そのため改正民法では、裁判所が予定された損害賠償額を増減できないとする部分は削除されました。

イ 経過措置

改正法施行日前に損害賠償額の予定の合意がされていれば平成29年改正前民法が適用され、改正法施行日後に合意されていれば、改正民法が適用されます。

 

2 契約書に与える影響

今回の改正で、債務不履行責任の有無の判断にあたり、契約の目的等を考慮することが明示されましたが、この部分は従来の解釈を明文化したものであり、契約書に与える影響はさほどないと考えられます。他方、填補賠償を求める際の「履行不能」の有無は契約締結の目的等から判断されるため、履行不能の有無を明らかにするために、契約締結の目的を詳細に記載する実益があります(詳細は第1回の記事をご参照ください)。

 

弁護士 六角 麻由

 

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