弁護士ブログ

BLOG

民法改正と契約書~第1回 履行請求権~

2019.06.04

平成29年、民法の債権編を中心とする大規模な改正法が成立しました。ここでは、従来明文化されていなかった判例による解釈が明文化されたり、定型約款のように新たな規定が新設されたりするものなど、実務への影響が少ないものから大きなものまで、多岐にわたる改正がされています。 民法(債権関係)の多くは2020年4月1日から施行されます。
この改正により、契約の見直しが必要となってきます。本記事では、契約の見直しが必要となる改正点、今後契約を締結するにあたり注意すべき点にスポットを当てて紹介していきます。

1 改正の概要

従前、債務の履行が不能である場合、債権者は履行を請求することができないとされてきましたが、平成29年改正前民法では、この点が明記されていませんでした。
改正法では、債務の履行が不能である場合には、債権者は履行を請求することができないことを明記し(改正民法412条の2第1項)、債務の履行が不能であるか否かは契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断されるとしました。
 「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてとは、契約の内容(契約の条項)、契約の性質(有償、無償など)、契約の目的、契約締結に至る経緯など一切の事情、取引に関する通念を考慮することを意味しています。

2 契約書への影響

履行不能の判断事由に明記されたことから、「契約の目的」が今後重要になってきます。例えば、従来の契約書では、契約の第1条に、以下のような規定を設けていることがあります。

第1条
本契約に基づき、甲は乙に対し、第●条に定める業務を委託し、乙はこれを受託する。

上記のとおり、改正法では契約の目的が履行不能であるか否かの考慮要素となるので、契約の目的(業務委託契約であれば、特定期日までにシステムを導入することを目的とする等)を盛り込んでおくと、どのような事態になったら履行不能となるのかが明らかになり、履行不能の場合の交渉も行いやすくなります。

なお、契約当事者が特約によって履行不能となる事由を定め、実際にその事由が発生した場合、履行不能として扱われると考えられます(例えば、輸入した部品を使用する機械の製造委託契約において、為替相場が一定程度変動した場合には履行不能扱いとする旨が定められ、実際に契約に定める為替相場の変動が発生した場合、契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして判断した結果、現実には履行が可能であったとしても、履行不能として扱われる等。)。そのため、履行不能となるべき事由を契約上明確にしておくことも、今後は重要になってきます。

弁護士 六角麻由

先頭に戻る