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民法改正と契約書~第5回 契約解除~

2020.08.18

1 改正の概要

(1)債務者の帰責事由要件の撤廃

平成29年改正前民法543条では、履行の全部又は一部が履行不能となった場合、債権者は契約の解除ができるものとし、ただし書きで「その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」とされていました。従前は、この部分の解釈として、債務不履行による契約解除をするためには、債務者の帰責事由が必要であるとされていました。

しかし、改正民法543条では、この部分が削除され、債務者の帰責事由がなくても、債務不履行による契約の解除が認められることになりました(なお、債権者の帰責事由により債務不履行となった場合に債権者からの契約解除を認めるのは不当であることから、この場合には債権者は債務不履行による契約解除ができません。)。

 

(2)債務不履行解除の条件の整理

平成29年改正前民法では、①履行遅滞等による解除権(平成29年改正前民法541条)、②定期行為の履行遅滞による解除権(同542条)、③履行不能による解除権(同543条)が定められていました。

改正民法では、催告による解除(改正民法541条)、催告によらない解除(改正民法542条)という解除の手続きによる整理がなされたほか、債務不履行の程度が軽微である場合位には、解除が不能である旨が明文化されました

 

(3)解除制度のまとめ

改正民法のもとで債務不履行が発生した場合の解除の条件は、以下のようになります。

ア 契約の全部について、解除を行いたい場合

(ア)無催告解除ができる条件(改正民法542条1項)

①債務の全部の履行が不能であるとき

②債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき

③債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき

④契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき

⑤その他、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき

上記条件を満たさない場合には、催告なしでの契約の全部解除ができないため、次の(イ)の手続きを踏む必要があります。

(イ)催告による解除を行う条件(改正民法541条)

・債務不履行をした相手方に対し、相当の期間を定めて履行をするよう催告を行う。

・相手方が期間内に何の対応もしなければ、契約の解除が可能となります。他方、相手方が履行をするか、履行したものの、軽微な部分のみ不履行があるような場合には、契約の解除はできません(改正民法541条ただし書き)。

イ 契約の一部について、解除を行いたい場合

(ア)無催告解除を行う条件(改正民法542条2項)

①債務の一部の履行が不能であるとき

②債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき

上記条件を満たさない場合には、無催告での契約の一部解除ができないので、次の(イ)の手続きを踏む必要があります。

(イ)催告による解除を行う条件(改正民法541条)

・債務不履行をした相手方に対し、相当の期間を定めて履行をするよう催告を行う

・相手方が期間内に何の対応もしなければ、契約の解除が可能となります。他方、相手方が履行をするか、履行したものの、軽微な部分のみ不履行があるような場合には、契約の解除はできません(改正民法541条ただし書き)。

 

2 経過措置

新法施行日(令和2年4月1日)前に契約が締結された場合、その契約の解除については旧法が適用されます。

 

3 契約書に与える影響

今回の改正により、催告後の債務の不履行が軽微である場合には解除ができない旨が定められましたが(改正民法541条ただし書き)、これは従前の判例の立場を明文化したものであるため、実務的な影響は大きくないと考えられます。また、従前は債務者が履行を拒絶していても催告をする必要がありましたが、今回の改正で、「履行を拒絶する意思を明確に表示したとき」(改正民法542条1項2号、同2項2号)には無催告解除ができる旨が定められました。無催告解除が認められる履行拒絶とはどのようなものであるかは、事例の集積を待つ必要がありますが、履行拒絶の意思を1回示しただけでは足りず、書面による拒絶・繰り返しの拒絶が必要であると考えられますので、注意が必要です。

弁護士 六角 麻由

 

 

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