民法改正と契約書~第4回 損害賠償~
2020.06.23
1 改正の概要
(1)債務不履行責任一般
平成29年改正前民法415条では、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」として、債務不履行があった場合に損害賠償請求ができる旨を定めていました。この規定については、規定内容の明確化等のため、以下の改正がされました。
ア 債務不履行責任の免責について
平成29年改正前民法415条では、後段の履行不能の場合にだけ帰責事由の有無が問題となり、前段の履行遅滞等の場合には帰責事由による免責がないような規定ぶりになっていましたが、判例ではどちらの場合でも、債務者に帰責事由がなければ免責される(損害賠償義務を負わない)と解されていました。この点を明らかにするため、改正民法415条1項では、以下のとおり文言が改められました。
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない。
イ 帰責事由の判断基準の明示
また、改正民法415条1項では、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の通念」により債務者の帰責事由の有無を判断することとされ、判断基準が明確にされました。ここでいう「契約その他の債務の発生原因及び取引上の通念」とは、契約内容(契約書の記載内容)だけでなく、契約の性質(有償か無償か)、当事者の契約締結の目的、契約締結に至る経緯等の一切の事情を含むとされています。
ウ 填補賠償請求権の明確化
改正民法415条2項では、①債務の履行が不能である場合、②債務者が債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき、③債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき、には、債務の履行に代わる賠償(填補賠償)ができる旨を新たに規定しました。
債務の履行期前に上記①~③の事情が発生した場合でも、填補賠償は認められますが、②の履行拒絶の意思は履行不能に匹敵するほど強固なものでなくてはならず、履行期前の交渉で相手方が履行を拒絶しただけでは填補賠償は認められません。
エ 経過措置
新法施行日(令和2年4月1日)前に債務が生じた場合の債務不履行責任については、平成29年改正前民法が適用されることになります。したがって、債務が新法施行日前に発生したものかどうかによって、適用される規定が異なります。
ただし、新法施行日前に売買契約が締結され、新法施行日後に債務不履行が発生した場合には、なお平成29年改正前民法が適用されるので、注意が必要です。
(2)損害賠償額の予定
ア 改正点
平成29年改正前民法420条では、当事者は債務不履行による損害賠償額の予定をすることができ、この場合裁判所は予定された額を増減することができないとされていました。
しかし、実際には多くの裁判例で、賠償額の予定のうち、著しく過大である部分については、信義則等を理由として無効とされており、規定と実際の運用に齟齬が生じていました。
そのため改正民法では、裁判所が予定された損害賠償額を増減できないとする部分は削除されました。
イ 経過措置
改正法施行日前に損害賠償額の予定の合意がされていれば平成29年改正前民法が適用され、改正法施行日後に合意されていれば、改正民法が適用されます。
2 契約書に与える影響
今回の改正で、債務不履行責任の有無の判断にあたり、契約の目的等を考慮することが明示されましたが、この部分は従来の解釈を明文化したものであり、契約書に与える影響はさほどないと考えられます。他方、填補賠償を求める際の「履行不能」の有無は契約締結の目的等から判断されるため、履行不能の有無を明らかにするために、契約締結の目的を詳細に記載する実益があります(詳細は第1回の記事をご参照ください)。
弁護士 六角 麻由