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民法改正と契約書~第11回 消費貸借契約~

2021.01.15

1 改正の概要

平成29年改正前民法587条では、消費貸借契約を要物契約(契約の成立に物の引き渡しを必要とする契約)としていました。しかし、現実には、諾成的金銭消費貸借契約(合意による消費貸借契約)を前提として銀行からの融資が行われ、最高裁も諾成的消費貸借を認めていました。そこで、民法において、諾成的消費貸借契約を認めるか、認める場合にはどのような条件とするかが問題となりました。

今回の改正では、消費貸借契約について要物契約であることを維持しつつ、書面(電子メール等を含む)で合意した場合には諾成的金銭消費貸借の成立を認めました。併せて、借主が目的物の受領前に解除した場合の取り扱いについて定めるとともに、利息についても新たに規定を設ける等の変更がされました。

(1)書面による消費貸借契約

ア 書面による消費貸借契約の成立

今回の改正により、①書面または電磁的記録(電子メール等)において、②当事者の一方が金銭その他のものを引き渡すことを約束し、③相手方が受け取ったものと種類、品質及び数量の同じものの返還を約束した場合、には、目的物の引き渡しがなくとも消費貸借契約が成立するものとしました(改正民法587条の2第1項、4項)。

イ 書面による消費貸借契約の解除

また、書面による消費貸借契約が成立した場合でも、借主は目的物を受け取るまでは、契約を解除することができます(改正民法587条の2第2項)。契約の解除により、貸主が損害を受けた場合には、貸主は借主に対し、その賠償を請求することができることとされました。貸主が消費貸借契約の解除による損害の賠償請求をするためには、貸主が現実に被った損害と、借主の解除と貸主の被った損害の因果関係を具体的に立証する必要があります(なお、消費貸借に利息を付した場合、この利息が得られたはずの利益として、「貸主に現実に生じた損害」に含まれるわけではありません。貸主が、借主へ貸す消費貸借の目的物を調達するために、特別に費用を支出した場合等が想定されます。)。

ウ 破産手続きの開始による失効

書面による諾成的消費貸借契約が成立した後、借主が目的物を受け取る前に、当事者のいずれかが破産手続開始決定を受けた場合には、消費貸借契約は効力を失うこととされました(改正民法587条の2第3項)。

 

(2)利息に関する規定の創設

平成29年改正前民法には、利息に関する規定がなく、利息を生じさせるためには、特約が必要であるとされていました。今回の改正により、利息を発生させるためには特約が必要であることが明文化され(改正民法589条第1項)、利息の発生日が目的物を受け取った日であることも規定されました(改正民法589条第2項)。利息の発生日に関する規定は強行規定であり、利息の発生日を目的物の受領日より前に設定する特約は無効になると解されます

 

(3)貸主の引き渡し義務について

平成29年改正前民法590条では、

利息付消費貸借契約

→目的物に隠れた瑕疵がある場合、貸主は瑕疵のない代替物を給付する義務を負い、借主は損害賠償請求ができる。

無利息の消費貸借契約

→目的物に隠れた瑕疵があった場合、同程度の瑕疵があるものを調達して返すことが難しいため、借主は瑕疵があるものの価額を返還することができる(ただし、貸主が瑕疵を認識しつつ、借主に告げなかった場合、貸主は瑕疵のない代替物の給付義務を負い、借主は損害賠償請求が可能)。

とされていました。

しかし、今回の改正で目的物に契約不適合があった場合の規定が設けられ(改正民法562条、564条)、この規定が消費貸借契約にも準用されること、利息の有無により、目的物に瑕疵がある場合の返還時の取り扱いを変える必要があるのか疑問視されたことから、次のとおり変更されました。

利息付消費貸借契約

→改正民法562条、564条と重複するため、従前の規定は削除。ただし、目的物に不適合があった場合には、代替物の給付及び損害賠償が認められる(改正民法562条、564条)。

無利息の消費貸借契約

→改正民法551条を準用し、消費貸借の目的物として特定された時の状態で引き渡す義務を負う(改正民法590条1項)

また、目的物が契約内容に適合しない場合、同じ品質のものを用意して返還することが困難であることから、この場合には利息の有無にかかわらず、目的物と種類・品質・数量が同じものではなく、目的物の価額を返還できることとされました(改正民法590条2項)。

 

(4)返還時期について

平成29年改正前民法のもとでは、消費貸借契約の借主はいつでも返還できるものの(平成29年改正前民法591条2項)、相手方の利益を害することはできない(平成29年改正前民法136条2項)とされていました。この点については今回の改正でもほぼ変わりがありませんが、期限前の返還に関しては、改正民法587条の2第2項と同様の規律がされています。

 

(5)その他の改正

平成29年改正前民法589条では、消費貸借契約の予約をした後、当事者の一方が破産手続開始決定を受けた場合には、予約の効力が失われるとしていましたが、改正民法587条の2第3項で同様の定めが置かれたことにより、平成29年改正前民法589条は削除されました。

また、準消費貸借に関する規定(平成29年改正前民法588条)についても、実務に合わせて文言が変更される等の改正がされています。

 

2 経過措置

改正民法施行日前に締結された消費貸借契約(平成29年改正前民法589条の消費貸借契約の予約を含む)および付随する特約については、平成29年改正前民法が適用され、改正民法施行後に締結された消費貸借契約に関しては、上記1記載の改正後の民法が適用されます。

 

3 契約書に与える影響

書面による諾成的消費貸借契約については、従前の実務を認めるものであり、大きな影響はないものと考えられます。書面による諾成的消費貸借契約締結後、実際に金銭等を受け取る前に契約を解除した場合の損害については、争いが発生する可能性がありますので、契約書に取り扱いを定めておくといった対応が考えられます。なお、消費貸借契約が定型約款(改正民法548条の2~4)で行われる場合には、そちらの規定にも留意する必要があり、賠償額の予定等を定めた場合でも、消費者契約法9条または10条により無効とされる場合がありうることも留意すべきです。

弁護士 六角 麻由

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