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民法改正と契約書~第8回 債権譲渡~

2020.10.07

1 改正の概要

平成29年改正前民法のもとでは、

・一身専属権等、性質的に譲渡ができない債権を除き、債権は自由に譲渡できる。

・ただし、債権者と債務者の間で、債権譲渡を禁止する特約は有効。したがって、当事者の合意により、債権譲渡を不可能とすることができる。

・債権の譲受人が債権譲渡禁止特約について善意かつ無重過失であった場合、債権譲渡禁止特約を譲受人に対抗することができず、債権譲渡は有効となる。

とされていました(平成29年改正前民法466条)。

しかし、最近では債権譲渡禁止特約があることで、債権譲渡による資金調達が妨げられている等の問題が生じたため、改正民法では債権譲渡禁止特約が付されている債権についても、債権譲渡は有効とされる等(改正民法466条)、債権譲渡について大きな改正がなされました。

(1)債権譲渡を制限する特約が付された債権の譲渡の効力

今回の改正により、債権譲渡を制限する特約が付された債権の譲渡は、譲受人が特約を認識していたか否かにかかわらず、有効となりました(改正民法466条2項)。ただし、譲受人が譲渡制限特約を認識していたかどうかによって、債務者が取りうる対応が変わってきます。

ア 譲受人が譲渡制限特約について善意又は、特約を知らないことについて重過失がない場合

債権譲渡は有効であり、譲受人が債務者に対する債権譲渡の対抗要件を具備していれば、債務者は譲受人に履行をしなければなりません。

 

イ 譲受人が譲渡制限特約について悪意又は、特約を知らないことについて重過失がある場合

この場合も債権譲渡は有効ですが、債務者は次の対応をとることができます。

(ア)譲受人に債務の履行を行う。

(イ)譲受人に対する債務の履行を拒絶し、債権者(譲渡人)に対する弁済等の履行をして、債権が消滅したらその旨を譲受人に主張する(改正民法466条3項)。
なお、債務者が譲受人への履行を拒絶し、債権者(譲渡人)からの履行請求にも、債権譲渡を理由に履行を拒絶することを防止するため、譲受人は債務者が債務を履行しない場合、次のような対応をとることができます。

①譲受人その他の第三者が債務者に対し、相当期間を定めて債権者(譲渡人)へ弁済等の履行をするよう催告する。

②その期間内に履行がされなければ、債務者は譲受人への弁済拒絶等の改正民法466条3項に定める抗弁を主張できなくなるので(改正民法466条4項)、譲受人が自分への履行を請求する。

(ウ)(金銭の給付を目的とする債権の譲渡の場合)供託をする(改正民法466条の2第1項)。
ウ なお、譲渡制限特約付きの金銭債権が譲渡され、その後債権者(譲渡人)が破産した場合には、その債権の全額を譲り受けた者が譲渡制限特約について悪意又は重過失であっても、債務者に供託を求めることができます(改正民法466条の3)。

(2)悪意の譲受人の債権者が差押えをした場合の効力について

前記(1)イ(イ)のとおり、債務者は、譲渡制限特約について悪意又は知らなかったことについて重過失のある譲受人その他の第三者への履行を拒絶できます。この場合、譲受人の債権者が譲渡債権を差し押さえたとしても、債務者は譲受人の債権者に対し、履行を拒絶することができ、債権者(譲渡人)への履行をすることが可能です(改正民法466条の4第2項)。

(3)将来債権の譲渡性の明文化

平成29年改正前民法では、将来発生する債権の譲渡については、明文の規定がありませんでしたが、有効であるとされてきました。今回の改正により、将来債権の譲渡が有効であるとの規定が新たに設けられ(改正民法466条の6第1項)、譲渡後に債権が発生した場合には、譲受人が発生した債権を当然に取得することが明らかにされました(同条第2項)。

また、将来債権の譲渡について、債務者への対抗要件が具備されるまでの間に譲渡制限の意思表示がされた場合、譲受人は特約について悪意とみなされます(改正民法466条の6第3項)。

(4)債権譲渡の対抗要件について

平成29年改正前民法では、債務者が「異議をとどめない承諾」をすることで、債権者(譲渡人)に主張できた抗弁を譲受人に対抗できなくなるとされていました(平成29年改正前民法468条1項)。今回の改正により、異議をとどめない承諾による抗弁切断の規定が廃止されたため、今後、債務者から抗弁の放棄を受けるためには、放棄の意思表示を得る必要があります。

(5)相殺について 

平成29年改正前民法では、債務者が譲受人に抗弁を主張できる場合については、改正前民法468条2項の規定しかなく、債務者が相殺を主張できる場合は解釈に委ねられていました。

今回の改正によって、債務者は、対抗要件が具備される前に取得した譲渡人に対する債権による相殺を譲受人に対抗できる(改正民法469条1項。なお、対抗要件具備後に他人に対する債権を取得した場合は相殺を対抗できません。)ことが明らかにされました。

また、債権者が対抗要件具備後に取得した債権者(譲渡人)に対する債権であっても、①対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権、②譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権、であれば、債務者は譲渡人に対する債権による相殺を譲受人に対抗できるとされました(改正民法469条2項)。

ここでいう譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて発生した債権とは、「譲渡された将来の売買代金債権と、当該売買代金債権を発生させる売買契約の目的物の瑕疵(契約不適合)を理由とする買主の損害賠償請求権との相殺」が例として挙げられます。今後は、どのような債権が上記②の債権に該当するのか、判例・実務の集積が待たれます。

 

2 経過措置

改正民法施行日前に債権譲渡の原因である法律行為(売買等)がされた場合の債権譲渡については、平成29年改正前民法が適用されます(附則22条)。

 

3 契約書に与える影響

これまでは、継続的な取引を行う際の基本契約で、債権譲渡禁止特約を付している例が多数ありましたが、今後は譲渡禁止特約を付していても債権譲渡が有効とされるため実務に大きな影響があります。なお、債権譲渡が有効とされたとしても、譲受人が譲渡制限特約について悪意又は重過失であれば、債務者はなお債権者(譲渡人)に弁済をして譲受人に対抗することができるため、譲渡制限特約を設ける意義はなお存続するものと考えられます。

弁護士 六角 麻由

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