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新型コロナウイルス法律相談第1回「休業手当」

2020.06.25

【質問】

今後ふたたび新型コロナウイルスの感染が拡大し、再度の緊急事態宣言が出されるに伴って政府が従業員への感染防止を目的として通勤をやめるように強く要請する事態に至った場合、会社が従業員に休業させる際に休業手当を支払う必要がありますか(※注)。

 

【回答】

1.労働基準法上、従業員の休業が「使用者の責に帰すべき事由」による場合には休業手当の支給が必要となります。

2.在宅勤務など代替の就業方法がないかどうかを十分に検討しても従業員を業務に従事させることが不可能であるときには「不可抗力」による休業といえるので、休業手当の支給は不要となります。

3.但し、「不可抗力」による休業の場合でも、会社が任意で休業手当を支給することは可能です。また、状況に応じて「雇用調整助成金」を利用することも考えられます。

 

【解説】

労働基準法第26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」と定めます。この手当は一般に「休業手当」と呼ばれます。

政府の強い要請に従って、新型コロナウイルスへの感染防止を目的として従業員を休業させる場合に、「使用者の責に帰すべき事由による休業」にあたるものとして、休業手当の支払が必要となるのでしょうか。

一般に、休業が「不可抗力」による場合には「使用者の責に帰すべき事由」には該当せず、休業手当の支給は不要と解されています。そして、ここにいう「不可抗力」とは、行政解釈によれば以下の2つの要件を満たす必要があります。

①原因が事業(人的・物的営業設備)の外部より発生すること
②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

 新型コロナウイルスの問題における「不可抗力」の解釈について、厚生労働省は以下の見解を示します。

例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能な場合において、これを十分検討するなど休業の回避について通常使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないと認められた場合には、『使用者の責に帰すべき事由による休業』に該当する場合があり、休業手当の支払が必要となることがあります。

厚生労働省の見解は、たとえ感染防止を目的として通勤をさせない場合であっても、使用者に対し、従業員の収入の途を閉ざさないように可能な限り代替の就業方法を確保することを求めているものと解されます。

以上より、在宅勤務などの代替の就業方法がないかどうかを十分に検討したうえで、業務に従事させることが不可能であるときは、休業が「不可抗力」によるものですので休業手当を支払うことは不要となります。

但し、休業手当の支払が不要な場合でも、会社が任意にこれを支払うことは禁止されません。

また、何らの手当をも支払わずに休業させた場合には、従業員の生活が困窮してしまう、または従業員が退職してしまう等の懸念もあると思います。したがって、会社の判断により休業手当を支給することも考えられます。

また、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、休業等の措置により従業員の雇用を維持したときは「雇用調整助成金」を受給できる場合があります。特に、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた事業主については「雇用調整助成金」の支給要件を緩和する特例措置が設けられていますので、この制度を利用することも考えられます。

※注:この場合、厳密には、従業員が給与(賃金)全額を請求できるかも問題となり得ます。使用者の措置により従業員が就業できなくなった場合は、民法の危険負担(民法536条2項)の考え方にもとづき、就業できないことが使用者の責に帰すべき場合(これは、故意・過失または信義則上これと同視すべき場合を指すと考えられています。 )には賃金の請求権が肯定されますが、少なくとも再度の緊急事態宣言に伴う政府の強い要請に従って従業員を休業させる場合において、上記の意味での使用者の帰責性が認められることは考えがたく、したがって賃金の請求権が認められる可能性は低いものと考えます。

弁護士 根本 農

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