民法改正と契約書~第2回 法定利率~
2019.08.06
1 改正の概要
平成29年改正前民法では、法定利率は年5%とされていましたが(平成29年改正前民法404条)、市場金利との乖離が激しく、実情にあわないという問題がありました。そこで、改正法では法定利率について以下のとおり変更されました。
①利息の生じるべき債権について、別段の意思表示がない場合、その利息が生じた最初の時点の法定利率とする
②法定利率は、年3%とする
③法定利率は、法務省令の定めにより算出される基準割合(短期貸付の平均利率をもとに算出され、法務大臣が告示するもの。算出方法は、法務省令で定める。)の変化により3年ごとに見直される。
また、今回の改正と共に、商事債権の法定利率を年6%とする商法514条が削除されました。これにより、商人間の取引であっても、契約で別段の定めがない場合、民法に定める法定利率が適用されることになります。なお、改正法の法定利率は、改正法施行後に生じた利息について適用されます。
2 法定利率の改正に伴うその他の変更点
これまでは、金銭債務の不履行による損害賠償額(遅延損害金額)は、「法定利率によって定める(ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による)」とされていました(平成29年改正前民法419条)。
しかし、今回の改正により法定利率が3年ごとに見直されることになったため、金銭債務の不履行による損害賠償額(遅延損害金額)は、「債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める(ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による)。」と変更されました(改正民法419条)。施行日後に債務者が遅滞の責任を負った場合、改正法の法定利率が適用されます。
3 契約書への影響
これまでは、約定利率を定めなくとも、取引の性質に従い、年5%又は年6%の割合による遅延損害金を請求することができました。しかし、今後は約定利率の定めがない場合、年3%(法定利率の見直し後は見直し後の割合)による遅延損害金しか請求できないことになります。また、履行遅滞のタイミングによって、適用利率が変動するので、遅延損害金額が契約時点で予想される金額と大幅に異なるおそれもあります。また、契約自体は改正法の施行日前に締結されていても、改正法の施行後に債務者が遅滞の責任を負った場合、改正法の法定利率が適用されます。したがって、今後は
乙が本契約に基づく金銭債務の履行を怠った場合には、支払期日の翌日から支払済みに至るまで、年●%の割合による遅延損害金を支払わなければならない。
というように、契約書で約定利率を明確に定めておくことが重要になります。
弁護士 六角 麻由